【映画】プラスチック・デトックス('26・米)Netflix

 

 現代人の全身の臓器にマイクロプラスチックが侵入しており、それが不妊の原因になっている。
 疫学者シャナ・スワン博士の研究によれば過去50年間で世界の男性の精子数は50%以上減少、さらに近年減少が加速。

 

●有害な物質
 プラスチックに添加される主な有害物質=内分泌かく乱物質(EDC)。


 フタル酸エステル類 : プラスチックを柔らかくする成分。テストステロンの生成を阻害。


 ビスフェノールA(BPA): プラスチックを硬くする成分。エストロゲン(女性ホルモン)を模倣し、ホルモンバランスを崩す。ごく少量でも影響。


 オビソゲン(肥満誘発物質): 約50種の合成化学物質が代謝を狂わせ、肥満を引き起こす。

 

 世代を超える影響:妊娠中の曝露は、胎児だけでなく、その子の生殖細胞(将来の孫世代)にまで影響を及ぼし、3~5世代にわたって負の遺産が受け継がれる可能性がある。

 

●「プラスチック・デトックス」の結果
 不妊に悩む6組のカップルが3ヶ月間、プラスチック製品や香料、加工食品を避ける生活を送った結果(綿100%の衣類を使うなど)、顕著な数値の変化が見られた。


 体内負荷の激減: わずか6週間で、BPA濃度が平均61.5%減少(一部の参加者は95%減、検出不能レベルまで低下)。
 精液の質の改善: 70日の精子生成サイクルを経て、最終的に6人中5人の男性で精子濃度や運動率が向上した(ある参加者は精子濃度が180%増加)。
 副次的効果: 参加者の多くで、体重の減少、睡眠の質の向上、集中力の改善が報告された。

 

●社会的・産業的課題と解決策
 グリーンケミストリー : ジョン・ワーナー博士らが提唱する、発明の段階から「毒性がないこと」を設計に組み込む新しい化学のあり方が普及し始めている。


 企業の欺瞞:石油・プラスチック業界は「リサイクル可能」という宣伝(リサイクル率は実際には約9%)を隠れ蓑に増産を続けてきたが、カリフォルニア州などはこれに対し法的追及を始めている。


 規制の格差: 米国でケア用品に使用禁止されている物質はわずか9種だが、EUでは1,100種以上が禁止されており、国際的な条約(国際プラスチック条約)の策定が急がれている。


 新素材への転換:海藻由来のフィルム、バナナ繊維で作ったシャツや靴、キノコや植物由来の染料など、石油に依存しない生分解性素材への「物質革命」が進行中。

 

 

 

 

それは「本当」か 米 ファクトチェック団体の日々

BSスペシャル 真実をめぐる攻防 〜アメリカ ファクトチェックの最前線〜
放送日 2026年1月30日

 

 

【補足 (Gemini)】
 ポリティファクト(PolitiFact)
 アメリカのファクトチェック(事実検証)団体。
 政治家やロビイストの発言・主張の真偽を客観的に検証しその正確さを評価する。
 発言の正確さを「真実」「ほぼ真実」「半分真実」「ほとんど嘘」「嘘」「明らかにでたらめ(Pants on Fire)」の6段階で評価。

 2008年米大統領選挙での活動が評価され翌年ピュリツァー賞を受賞。

 前身はフロリダ州地元紙。
 独立性を保つため運営は寄付で行われる。
 ワシントンオフィスはホワイトハウスのすぐ裏手にある。


トランプ大統領タイレノール発言
 2025年9月
 第二次トランプ政権発足8ヶ月後。ホワイトハウスでの会見。

 トランプ大統領タイレノールアセトアミノフェン。解熱鎮痛薬)は妊娠中に服用すると子どもの自閉症のリスクを著しく高めるおそれがある。タイレノールは服用しないでください。服用しないデメリットはありません」

 その背後にワクチン慎重派であるロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官が立つ。

 

 ポリティファクト医療担当記者マディソン・チョペック
トランプ大統領は彼を厚生長官に任命するほど信頼しています。だから彼が大統領に『懸念がある』と伝えれば大統領はその声を重く受け止めます」

 

 チョペック氏は即座に取材を開始。夜を徹し米国母体胎児医学会、米国産科婦人科学会、自閉症研究センターなど40を超える情報源を取材した結果、妊娠中のタイレノール服用と自閉症の因果関係は認められていないことが判明。妊娠中の高熱を放置すると母子に深刻な健康被害(命に関わる恐れ)が生じる可能性が高いため、「服用しないデメリットはない」という主張は誤りだった。

 

 チョペック氏「(ほかの記者に)これが問題になるのはね、(妊婦にとって)数少ない痛み止めの薬だからよ。だから突然この薬は危険だと言われたら妊婦の選択肢はとても少なくなるの」

 

 ポリティファクト内部では編集長ケイティ・サンダース、副編集長レベッカ・カタラネロらが議論。最初は「事実ではない」と判定する方向だったが、専門家が「この発言は危険」と指摘したため、最終的に編集長の判断で「明らかにでたらめ(Pants on Fire)」に格下げ。


 ポリティファクト記事「トランプ氏の発言は間違っている。『タイレノールを服用しない場合、妊婦の発熱を治療できない』というデメリットがある」

 

 ポリティファクトでは正確を期すため、すべての記事を3人の編集者が確認する。
 記事は全情報源とリンクを公開し、読者が自分で検証できる。
 公開後、読者から「ありがとう」「(会見での発言は)ばかげている」などのコメントが寄せられた。

 

ポリティファクトの歴史とトランプ政権特有の課題
 設立当初から民主党共和党の両党を公平に検証。2008年大統領選では750超の発言をチェック、オバマ候補の出生証明書偽造説やマケイン氏スパイ説を否定した。

 

 16年にわたるファクトチェックを続けてきたルー・ジェイコブソン記者。
 トランプ大統領にはこれまでの大統領には見られなかった特徴があるという。
「彼はとてもよく話す大統領で発言そのものを楽しんでいる。そのため多くの言葉が次々と出てきます。さらに過去の大統領とは異なり思いつきの言葉が公の発言になる。スタッフが事実を確認していない可能性もある。極めて異例な存在です」

 

トランプ大統領はなぜ波紋を呼ぶ発言を次々と繰り出すのか?
 ロリー・トゥルエックス准教授(プリンストン大学国際関係学部 政治とメディアが専門) 
「フラッド・ザ・ゾーン(情報の洪水)という戦略。共和党の戦略の一部で、トランプ氏の重要なアドバイザーだったスティーブ・バノン氏の発案です。『洪水のように情報をあふれさせる』とは民主党・メディア・司法制度に大量の情報を同時に流して圧倒することです。それは大統領令や報道機関への声明など多くのニュースを作り出して全てに対応をさせないという戦略なのです」

 

史上最多の大統領令

 洪水のように次々と繰り出す発言はメディアを翻弄する。
 議会の承認を必要としない大統領令は環境規制の撤回や国際協定からの離脱、紙ストローの廃止など多岐にわたる。
 近年の大統領として任期内に最も多く大統領令を出したのはトランプ政権1期目。2期目は就任後1年にしてすでにその1期目を越えている。

 

2025年9月23日 国連総会でのトランプ大統領演説
 本来の15分を越え1時間に延長。「洪水」の象徴。
 ジェイコブソン記者とマリア・ラミレス・ウリベ記者がリアルタイムで発言をチェック。
 ポリティファクトが誤りと判定した主な発言
「エネルギーコスト・ガソリン価格・食料品・住宅ローン金利が低下し、インフレは打ち負かされた」→ 誇張。エネルギー価格は下がったが主要物価は高いまま。


「世界中の刑務所・精神病院・麻薬組織から何百万という人々が押し寄せてきた」→ 移民問題の誇張。


「マドゥーロ大統領が率いるベネズエラのテロリストと麻薬密売組織」→ 専門家はベネズエラ政府の組織的麻薬関与の証拠なしと否定。米国流通のフェンタニルは主にメキシコ産。

 

 60分で14の発言を事実と異なると判定。ウリベ記者「何を検証すべきか判断に迷うほど多い」。

 

民主党側の発言も検証
 民主党下院トップ、ハキーム・ジェフリーズ氏のSNS投稿「トランプ政権は(生活費・医療危機を無視して)大広間の建設を最優先事項と宣言した」
 → 会見映像の一部を切り取り。実際は『大広間と庭園のほかに改修工事を予定しているか』の質問に対し報道官が「大広間が最優先」と答えた。
 ポリティファクトは「事実ではない」と判定。


 ジェイコブソン記者「著名な民主党員の彼が投稿をしたからほかの民主党員も続きました。私たちは全ての政治家を検証し両党とも同じ基準で判定しています」

 

 ジェイコブソン記者はジャーナリストキャリア30年超。
 ワシントンポストで働く母の姿にあこがれ報道現場に飛び込んだ。
「私は1993年にワシントンの専門紙で記者の仕事を始めました。当時はインターネットがありませんでした。今では紙よりもオンラインが主戦場です。私のような中立的な立場を保ち強い主張を避けるジャーナリストもいますがメディアは右派か左派かにかかわらず主張がより強い記事へ大きくシフトしています。私はその流れに抵抗してきました。自分が書くテーマに強い意見を持たず中立的に検証することを心がけています。これは今や消えつつある姿勢です」

 

スプリングフィールドでは移民がペットを食べている」
 移民問題担当のマリア・ラミレス・ウリベ記者はベネズエラ出身。2024年大統領選討論会でのトランプ大統領の「スプリングフィールドでは犬を食べている。移民たちは猫を食べている」発言を即座に否定した。事前にSNSで拡散していた同主張を市・警察取材のうえ「事実ではない」と記事公開済みだったためリアルタイムの対応が可能だった。
 この主張は右翼SNSから拡散したもので、ポリティファクトはトランプ・バンス両氏を2024年のLie of the Yearに選出した。

 

ポリティファクトとスタッフへの批判、脅迫
「明らかにデタラメ」と判定した記事には批判的な意見も多数寄せられる。
 ウリベ記者「移民関連の報道には特に批判が多いです。『この記者は民主党員だ』とか。『反トランプで現実を見ていない』と怒る人がいます。『犯罪者や麻薬の密売人をかばっている』というメッセージを受け取ったこともあります。脅迫メールも本当にたくさん届きます」

 グレース・アベルズ記者(医療・LGBTQ担当)
「殺害の脅迫やレイプの脅迫を受けました。とても暴力的な脅迫を受けたんです。私だけではありません。だから本当に怖いです」

 

 ファクトチェックの効果を疑問視する人も多い。
 身の危険にさらされながらも真実を追い続ける記者たち。

 

ジャーナリストの権利

 ポリティファクトでは第二次トランプ政権が始まってすぐにある対策を講じていた。
連邦政府がニュースルームを急襲した場合の対応方法です。もし彼らが侵入してパソコンや原稿・資料などを要求した場合、私たちが発言するべきことや緊急連絡先についてのガイドラインです」

 すべての記者のデスクに貼られたガイドライン。オフィスに強制捜査が入った場合の対処法が記されている。
「可能であれば状況を録画してください」
フロリダ州にいる弁護士にすぐ電話してください」


 さらに、記者たちがその場で口にするべき言葉も記されている。
連邦政府のプライバシー保護法では私たちの資料と機器を押収することを禁じています。直ちに行動を中止して施設から退去するようにお願いいたします」

 

 記者「米国では憲法修正第1条によってジャーナリストの権利が認められています。しかし今、報道機関への攻撃やジャーナリストへの攻撃が起きているため、ワシントンにいる我々としてはその可能性に備えることも重要です。このガイドラインが必要になる時が来ないように願っています」


分断の加速、AIフェイク、メディア攻撃の激化
 トランプ大統領を熱狂的に支持するMAGA派の代表格、保守活動家のチャーリー・カーク氏の銃撃死亡事件後、テイラー・スウィフトら著名歌手の追悼曲動画が拡散した。
 トランプ大統領は逮捕された容疑者の動機が明らかになる前から左派への批判を強めていく。
「過激な左派は非常に危険なことをする」


 AI担当のローラベン・トゥケロ記者がディープ・フェイク研究の第一人者、ニューヨーク州立大シウェイ・リュウ教授に解析依頼。AI特有の周波数ノイズを確認し、99%以上AI生成と判定。しかし記事公開後も拡散は止まらない。


 トゥケロ記者「音声が生成AIかどうか判断するには専門家に依頼するしかありません。今や生成AIは本物と見分けがつかないほど技術が進化しています。AIの技術について人々に伝えてもすぐに時代遅れになってしまいます。私たちもその進化についていく必要がありますがそれはとても難しいことなのです」

 

 リュウ教授「ソーシャルメディアの世界はAIで作成されたフェイクであふれています。だからファクトチェックをするポリティファクトのような組織と我々技術者が連携することは真実を守る最後の防衛線なのです」

 

「恥の殿堂」
 2025年11月末、トランプ政権はホワイトハウスサイトに「今週のメディア犯罪者」(恥の殿堂)ページを設置。ニューヨーク・タイムズ記者らを「偏見・不正行為」で名指し。

 ウリベ記者「(メディア批判は)トランプ政権だけの話ではありませんが今はさらに悪化しています。メディアへの批判を強め私たちをフェイクニュースと呼びそれを視覚化しているんです」


 アベルズ記者「私たちはまだ載っていないと思います。でもいずれ載るかもしれません」


  サンダース編集長「典型的な手法ですが『恥の殿堂』という表現は前代未聞です。取材チームに望むのはそれを念頭に置いて仕事をしないこと。ファクトチェックの判断が曇るから取材は常にオープンな姿勢で臨んでほしいんです」

 

移民の強制送還
 2025年末、移民問題担当のウリベ記者は1年を総括する特集記事としてトランプ政権の「(移民のうち)最悪の犯罪者を優先的に送還」の方針が実際に守られているか検証。

 トランプ大統領「移民を収容するには何兆ドルもかかる。特に犯罪者から始める。彼らは世界中で最も悪質な連中だ」
「『最悪中の最悪』が常に最優先だ」

 

 ウリベ記者は取材のなかでエルサルバドル出身の兄弟に出会う。10歳と11歳で米国に来て以来正規の滞在資格を得るため10年にわたり移民当局に通い続けてきたが定期報告に行ったICE(移民税関捜査局)で突然拘束され強制送還された。
 兄弟をサポートした弁護士アラ・アモアチを取材すると二人には犯罪歴がないことがわかった。

 

 ウリベ記者「彼らは国外退去が原因でうつ病PTSDと診断されたそうです。犯罪は一切犯していません。ICEの出頭の義務を果たし合法的な道を歩もうと努力していました。本当に胸が張り裂けるような話です。彼らの物語はトランプ政権の大規模な強制送還の実態なのです」


ベネズエラ攻撃、ICE職員発砲事件
 2026年1月3日、米国がベネズエラに大規模攻撃、マドゥーロ大統領夫妻を拘束。
 トランプ大統領は「マドゥーロがフェンタニルを大量流入させていた」と主張。
 ポリティファクトは「事実ではない」と判定。

 

 1月7日、ICE職員の発砲による女性死亡事件が発生し、デモが全米に拡大。
 SNSに被害女性が児童虐待をしているというフェイクが拡散、ポリティファクトが即座に「事実ではない」と判定を出した。

 

 この日は第2次トランプ政権発足から1年。

 トランプ大統領「我が国はベネズエラへの攻撃、イランの核能力への攻撃を誇りに思っている」

 

 ジェイコブソン記者「何が真実で何がフェイクか。その問いを深く掘り下げ、その境界線を見極め最善の判断を下そうとしています。こうした活動は必要だと確信しています」

 

 トランプ大統領の会見は1時間45分に及び、この1年の成果を誇示した。

 トランプ大統領「ICEと国境警備隊はどちらもすばらしい活動だ。国外から来た連中がここで良くなると思うか?」

 

 そのテレビ映像を見ながらウリベ記者が涙を拭う。
「フェイクは人々の人生に大きな影響を与えます。単なるウソでは済まされません。私たちの活動に関心を持つ人々は確かにいると信じたい。私たちは未来の世代のために事実を記録していきたいのです」



 

名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で [後編] ”軍事化”する学校

BS世界のドキュメンタリー 名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で [後編]
放送日 2026年1月14日
制作 made in copenhagen / Pink Productions (デンマーク/チェコ 2025年)

 

 

後編 ”軍事化”する学校

 2023年4月、反逆罪に関する刑法の改正が行われた。

 テレビニュース「プーチン大統領は国家反逆罪に終身刑を科す法律に署名しました」
 プーチン大統領「外国の諜報機関を取り締まりスパイや破壊活動に対応する」
 ニュース「禁錮25年の判決を受けたのは活動家のウラジーミル・カラムルザ。国家反逆罪や軍の名誉を傷つけたとして有罪に」
 プーチン「祖国への反逆者が存在する。考えてみよ。ある国の市民でありながらその国を裏切る人間がいる。そいつはクズ野郎だ」

 

 人々はパシャのカメラの存在を意識するようになった。「ある時点から警戒されるようになったんです」

 

 アブドゥルマノフ氏「着席してください。正誤を答えなさい。『現代の戦争で効果的な戦術は相手の国内でスパイ活動をすることだ』」
 生徒「正しい」
 アブドゥルマノフ氏「敵は地域社会の人を利用してプロパガンダを広め混乱を起こそうとしています。これは紛れもない事実です。私たちは互いに支え合わねばなりません。なぜなら敵は私たちを分断させることによって内側から崩そうとするからです。だから今一番重要なのは私たちが団結し互いを支え合うことなのです」

 

 パシャ:僕がここの生徒だった頃にはあのような授業は考えられませんでした。当時は学校がオープンで僕のような生徒も自由にものを考えることができました。でももはやここに自由はありません。

 

 登校した生徒一人一人に金属探知機を使うアブドゥルマノフ氏。

 

 さらに新しい制度、「青少年のための全国運動」がスタートする。
 プーチン大統領「初会合に参加されている皆さんにごあいさつ申し上げます。ここモスクワには全国から優秀な子供たちが集まりました。新たに加わった地域の子どもたちもいます」

 

 大統領はソビエト時代の少年団の創設100周年にあたり新組織を発表。共産主義の時代、少年団は若者たちを将来の戦士として育成した。
 この全国的なプロパガンダ組織を復活させようという。

 パシャ:しかし共産主義のためではありません。この運動はプーチン大統領にだけ忠誠を尽くすものです。

 

 子どもたち「愛国者。われらは愛国者のチーム。前進するのみ。勇敢で機敏。勝つために全力を尽くす」

 

 この新たな青少年運動によって、さまざまなタイプのプロパガンダ授業が義務になった。いまや教師の教え方が決められているだけではなく、生徒たちも原稿通りの発言が求められる。

 

 教師「みんな原稿を机の下に隠してください。──ソビエトの”英雄都市”はほかに?」
 生徒「キエフ
 教師「そう、正解です。キエフについて誰か説明して」
 生徒「キエフナチスとの戦争で最初に敵と戦った都市です。ドイツのファシストの攻撃に対して1941年6月6日に軍司令部をキエフに設置。その後72日間にわたるキエフの防衛作戦が始まり1941年9月19日まで続きました」
 生徒「英雄都市の称号を受けました」

 

 パシャ:プーチンの授業は何を教えようとしているのでしょうか。それはロシアにとって最も神聖な日、戦勝記念日を見れば明らかです。ナチスと戦った大祖国戦争で戦死した親族の写真を掲げて行進します。

 司会「ソビエトの兵士たちをたたえて花輪を献上する式典を始めます」
「銅を採掘する大手企業が花輪をささげます」

 

 パシャ:子供たちへのメッセージは明白です。国のために戦い命を捧げるよう求めているのです。

 男性「ナチスと戦った大祖国戦争のときのように団結せねばなりません。こんなに多くの若者たちが参加してくれました。愛国者たちよ、頑張ってください。皆さんのような若者たちが悪を倒し勝利の旗を掲げるのです」

 

 兄が戦地にいるマーシャ。
 パシャ「やあマーシャ、元気にしてた?お兄さんの記事が教室に貼られてうれしい?」
 マーシャ「戦場にいるのよ、うれしくない」
 パシャ「そうだね……」

 

「兵士に手紙を書く」という課題でマーシャは抑圧された感情を吐き出す。
「親愛なる兵隊さんへ。いまお元気ですか?衣食は足りていますか?今の状況はあなただけでなく家族や友達にとっても非常につらいはずです。とにかく家に帰れるようがんばってください。今の状況は私にとってもつらいです。私の兄は戦場にいて、家族はすごく心配しています。2023年2月3日、兄から連絡がありました。空腹じゃない、家族が恋しいと。あなたも心配している人たちに連絡してあげてください」

 

 廊下で兵士の帽子をかぶり行進の練習をさせられる生徒たち。

 

 生徒たちの成績は低下。

 

 パシャ「生徒の成績が下がっているのはたぶんあのデタラメのせいさ。愛国授業だの特別講義だのの準備をしなきゃならない。新たに押し付けられた子どもの運動組織もある」
 同僚教師「そのとおりよ。どうやって全部いっぺんにやれっていうの?」
 パシャ「行けロシア、核兵器万歳、今はそればっかりだ」
 同僚教師「よけいな活動を一切やめて教育に集中したらどうかしら。やってみる?」
「そんなことできる?」
「解雇される」
「校長だってクビになる」
「従うしかない」

 

 プロパガンダに飲み込まれそうだと感じるパシャ。
 ウクライナに対する戦争への支持を示すシンボル「Z」の代わりにXのマークを学校中の窓に貼る。「ウクライナ難民への支持を示したいのです」

 

「パシャ、こういうことはしないで。あなたももっと大人になりなさい。みんな大変なのよ」
「その通り。みんなが大変なんだ」
「ほかの人の意見にも耳を傾けて」
「そうだね。お互いの意見を聞けて良かった」

 

 パシャの政権に対するあからさまな反抗について噂が広がり始める。
パシャ「ロシアではこれがどんな危険をもたらすか見当もつきません」

 

 ある受賞式。地域で生徒たちに最も愛されている教師に賞が授与される。賞品はカラバシュにある新築の豪華なアパート。

 司会「それではみんなの大好きな先生の発表です。受賞者はパベル・アブドゥルマノフ先生。カラバシュの初等中等教育学校の歴史と社会科の先生です。生徒と保護者の皆さんが次のように評価しています。先生は優しく分かりやすくて独創性のある授業を行い生徒に理解があります。そして物事の正しい考え方を教えてくれます」

 

 新しいアパートに移ったアブドゥルマノフ氏(テレビのインタビュー)
「顔には出ていないかもしれませんが感動しています。引き裂いてやりたいほど嫌われていると思っていましたが、愛されていたんですね」

 

 パシャ:僕は自分の無力さを感じています。
 今日は傭兵たちが授業をするのです。教えるのは民間軍事会社ワグネルの隊員です。

「これは花びら地雷と呼ばれ飛行機などで上空から撒きます。野原や開けた場所でも気づきにくい地雷です。まして森や草むらでは見分けることが困難です。この地雷を見たら避けて通ること。絶対に近寄ったり触れたりしないこと。中に液体が入っていて触ると液体が漏れて爆発します。一瞬で脚が吹き飛ばされます」
「なにより覚えてほしいのは、銃撃戦に巻き込まれたらヘルメットのストラップを閉めすぎないこと。弾などが当たった衝撃で首が折れます」

 

 こわばった表情で聞く生徒たち。
 話のあと自由に装備にさわり身に着けてみる男子生徒。
 銃を持ったり防弾チョッキを着けワグネル隊員を囲み集合写真。

 

 行進の練習、射撃演習。手投げ弾の投げ競争で上位になりうれしげな生徒。

 

 プーチン大統領(テレビにて)
「今ほど教師が求められている時代はありません。国が危機を迎えているとき教師は重要な役割を果たします。戦争を勝利に導くのは指揮官ではなく教師です」

 

 軍関係者 学校で生徒たちに
ナチスとの戦争で使われた武器を見てみよう。これは当時の軽機関銃。別の銃と共通の弾薬を使い75発撃てた。」

 パシャのむけるカメラのレンズに向かって銃口を向けスコープをのぞく男子小学生。沈鬱な面持ちでそれを撮影するパシャ。

 

 母に花をもっていくパシャ。
「こんにちは。お誕生日おめでとう。花束をどうぞ。それにプレゼントもあるんだよ」
「いいわね」
「今夜たぶん母さんの家に寄ると思うよ」
「こなくていいよ」

 

 校内放送「今日の訓練は現役軍人も指導に加わり兵役に必要な心構えを学びます」
(食堂で迷彩服で食事をとる兵士たち。)

 マーシャ「昨日兄が泣きながら連絡してきた。犠牲者が大勢出たって。」
「どういうこと?泣いてたの?」
「通信アプリに家族にあてたボイスメッセージが入ってた。僕は生きてる、大丈夫だよって。でも仲間がたくさん死んだと言ってた。最後には声が震え始めて……」
「お兄さん帰れないの?」
「帰りたがってる。なるべく早くここから離れたいって」
「戦線離脱が許される手続きとかはないのかな?」
「ないと思う。休暇だって無理みたいだし」
「お兄さんは契約で?それとも動員?」
「動員された」
「動員を免除してくださいとは言えないのかな?」
「だめ。もう軍は兄を戦線からはなしてくれないよ。本当にひどい。悪夢だよ。最悪。こわい」

 

 軍隊の映像 整列する兵士たちに向かい上官
「お前らは全員死ぬだろう。だがひとつ覚えておけ。母なるロシアはお前らを決して忘れない。全員の墓石に何百年先までも花がたむけられる。兵士ひとりひとりの名前が記念碑に刻まれる。永遠の炎がともされる」

 

 パシャ:ウクライナでの戦争は第二次世界大戦以来ヨーロッパでもっとも血生臭い戦いです。プーチンの戦略は2024年夏まで可能な限り多くの兵士たちを前線へ送るというものになっていきました。ロシアはゆっくりと占領地を広げています。あちこちで数平方キロメートルずつ。でもそのために膨大な数の命が犠牲になっています。
 それでもカラバシュからの新兵は不足することはありません。子供たちが学校で「愛国心」を叩き込まれているからです。
 誕生日にマクドナルドのポロシャツをもらったニキータを撮影したのが昨日のような気がします。

 

ニキータ、君の人生の新しい章が始まる。さらに男らしくなろうとしている。君が強く明るく元気でいるよう祈る。何か問題が起きたら僕たちはいつでも力になるよ。君のために乾杯」
「幸運を祈る」
「こう撃つんだ。正しく構えて4発」

 

 戻って来たら会おう、1年後に会おうと言いながら二度と戻らない男たちがいます。

 アルチョムは僕の友人でクラスメイトでした。彼も犠牲となった大勢の兵士のひとり。こうした死を政府は隠ぺいしようとしています。この戦争で命を落とした兵士の数は政府にとって高度な機密情報です。

 

 ロシア兵の葬儀の撮影は危険すぎます。でも僕は重要なことだと思うので音声を録音しました。
(2024年5月 カラバシュ共同墓地での音声録音)
 息子の名を叫び半狂乱になる母親。

 

 ウクライナでの状況が僕たちよりずっと大変だということは分かっています。それでもここでも戦争のせいで苦しむ人が増えています。そしてその心の傷は学校の至るところまで及んでいます。


 誰よりも優しい少年イーゴリは父親を亡くしました。学校の警備担当者クリスティーナは恋人を失いました。そして生徒たちの兄弟も大勢が危険にさらされています。マーシャの兄コスチャは動員されてウクライナへ派遣されました。彼は軍から脱走し必死で逃げ続けましたが捕らえられ前線に戻されました。
 数週間後マーシャから兄が亡くなったと聞かされました。

 

 お兄さんが恋しい?
 もちろん。みんな寂しがってる。

 

 お兄さんのことについてマーシャとはまだしっかり話せていません。そのことが心残りになっています。マーシャは自分の気持ちを気兼ねなく自由に語れる場所をいつも探していました。でも何かが変わってしまったようだと僕は認めざるを得ません。生徒たちは僕の教室に寄りつかなくなりました。民主主義の旗を掲げている男と一緒にいるところを見られたくないから来ないのです。

 

 でも生徒たちが僕を避けるのはおそらく正しい選択でした。ある日警察の車が僕のアパートの下に現れました。カラバシュのような小さな街でこれは不穏な事態です。万一に備えてハードドライブとパスワードを隠しました。ここが隠し場所(壁の中)。


 ロシアの人々、そしてカラバシュの町の人たちに僕が撮影した映像を見てもらいたいです。撮影した内容やそこで語っていることのせいで僕は間違いなくひどく殴られるか刑務所に送られるだろう。もしロシアが自由な国だったら、人々が言うべきことを言える自由のある国だったら、僕はここにいられるのに。
 これは、この脱出は……。

 

 僕は図書室へ行きます。別れの挨拶のようなものをするためです。
「母さんが本の修理をしているところを撮らせて」
「破れちゃってるの」
「何をしているのか教えて」
「表紙を付け直している」
「こうして母さんが本を直していることを誰か知ってるの」
「このことを子供たちに話してる」
「うちにある観葉植物を母さんの家に持っていくことにした。空いてる地面に植えるよ。聞いてる?」
「聞いてるよ」
「枯れてしまってもいいけどうまく根付けば嬉しいな。何を考えてるの」
「別に何も」

 

 母さんは僕がいなくなることに勘付いていると思いますが永遠に戻らないとまでは思っていないでしょう。愛する母さんにそれを告げることはとてもできません。

 

 自室で壁に貼ったものを外し、荷造りをして出ていく。

 

(カメラを固定し自撮り)
 僕はこの町のほぼすべてを愛している。灰色のソビエト風の建物が大好きです。銅の精錬工場から伸びるパイプが 迷路のように絡み合っているところが大好きです。
パイプパイプパイプだらけ。建物の壁から染み出た雨水が後になっているのも大好きです。雷や稲妻が大好きです。

 

 電話の声「出国について話しておきます。国境を越える前にメッセージアプリは削除して。持ち出す動画には十分用心して。落ち着いて。往復チケットを見せれば帰国すると思うはず。自分を信じて。あなたの行動は大きな反響を呼ぶでしょう」

 

夜 暗い中で
 僕がいなくなる前の最後の仕事です。卒業式のために若木を1本掘り出して校庭に植えます。新しい始まりの象徴です。

 

卒業式当日

 僕はまだカラバシュの初等中等教育学校で学校行事の担当者なので今日は卒業式を取りまとめなければなりません。卒業証書は印刷したしスピーチ原稿も用意しました。僕は全力を尽くしてこの仕事に取り組みました。

 在校生の送辞「運命を自分で切り開いて向かい風でも進んでください。たとえ険しい道であっても」

 

 パシャのスピーチ
 親愛なる友人の皆さん、卒業生の皆さん、保護者の皆さん、そして先生方。まもなく皆さんのお子さん達、皆さんの生徒たち皆さんの兄弟姉妹、そして皆さんの大切なご家族は学校の最後のベルを聞くことになります。


 それは卒業生の皆さんの真の大人としての生活の始まりを意味します。僕はこの機会を借りて伝えたいです。皆さんを我が親愛なる友と呼べることを。心から嬉しく思っていると。


 君たちがどのような道を歩もうと君たちの足元にはいつも揺るがない大地があることを僕は願っています。回り道もあるでしょう。登り坂や下り坂もあるでしょう。別れ道で選択を迫られることもあるでしょう。時には正義のため時には愛のために多くを犠牲にしなければならないこともあるでしょう。


 でも君たちには心の声に従って選択してほしい。僕は君たちを心から愛しています。これまでの数年間僕と共に歩んでくれて本当にありがとう。僕は君たちが大好きです。最後のベルが鳴るときが来ました。ありがとうございました。

 

 卒業式では誰もが同じ思いでした。これまでの生活に別れを告げ前に進まなければならない。でも何が待ち受けているかわからない。

 

 自室で荷造り中のパシャ「あれ?どこへ行っちまったんだ……」

 

 卒業生 卒業式で
「先生方の温かいご支援に感謝しています。いつも一緒に歩んでくださいました」

 

 パシャ 自宅で
「これが僕のパスポートです」

 

 僕らはもう一度ハグを交わした。地球上で最も汚染された街で。
 ウラル山脈の澄んだ空気を感じた。有毒なガスの合間から。

 

(生徒たちの合唱)
 我が愛する祖国は広大だ
 多くの森や原野が広がり川が流れる
 世界に2つとない国
 ここでは人が自由に息をすることができる
 世界に2つとない国
 ここでは人が自由に息をすることができる

 

(テロップ)
 2024年夏 パシャは卒業式の翌日 ロシアを脱出
 彼がロシアから持ち出した映像は学校と社会が戦時色に染まる過程を詳細に記録している

 

 

 

[補足]

 

BIDF 2026:ドキュメンタリー映画界のスターたちがブダペストに集結

 

 

 

 

名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で [前編] 追い込まれる教員たち

BS世界のドキュメンタリー 名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で [前編]
放送日 2026年1月13日
制作 made in copenhagen / Pink Productions (デンマーク/チェコ 2025年)

 

 

 この映像はロシアのいち教員が命を賭して国外に持ち出した。

 

前編 追い込まれる教員たち

 ロシア中部の町、カラバシュの初等中等教育学校の教員パシャ・タランキン氏。
 学校では行事の運営と撮影を担当。
 パシャの部屋は出入り自由。生徒や卒業生が悩みを相談できる心の拠り所になってきた。
 しかしウクライナへの軍事侵攻のあと学校に愛国教育が導入され状況は一変。
 教え子が出征し、戦争の影が学校を覆う中、自分はどう振る舞うべきなのか。
 選択を迫られる。

 

 カラバシュは人口1万人ほど、ヨーロッパとアジアを分けるウラル山脈の東に位置する重工業の町。町は工場が排出する有毒ガスで有名。
 ユネスコは「世界で最も汚染された町」と呼んだ。

 

 2022年2月
 ニュース「ロシアは特別軍事作戦を実行します」
 プーチン「議会の承認を得て2月22日に批准した、ドネツク民共和国とルガンスク人民共和国との友好及び協力に関する条約を履行するため、私は特別軍事作戦の実施を決定した」

 

 学校でミサイルが車で運ばれるニュース映像を見る生徒たち。

 

 学校宛てFAX「新しい連邦愛国教育方針」

 

 パシャ「えっと、もしもし。これ、説明してもらえます? さっぱり分かりません」
 電話の相手の女性「要するに、子供たちに戦争の勝利をテーマにした詩を読ませたり、 資料を作らせたりしなければならないの。あなたはその様子をカメラで写真に撮るか、ビデオで映すか、そのどれかをしなければならない」
 パシャ「頭がおかしくなったんですかね?」 
 女性「上からの指示よ」
 パシャ「実際、どうやるんですか?」
 女性「分からない」
 パシャ「そうですか。嫌だな……。分かりました。では。」
 パシャ「なんだよ……。(独り言)」

 

 戦争を支持する愛国的なカリキュラムが学校に導入されることになった。
 政府の代理人である歴史教師アブドゥルマノフ氏が校内で号令をかける。
「国旗入場。──国旗を設置」
 整列させた生徒たちの前に軍隊式の歩き方で入ってくる上級生、その後ろに国旗を掲げた生徒。

 

 パシャ:学校が政府の命令に従っている証拠として、動画を送らなければなりません。最初の数日間、僕はあちこちの教室を駆け回り、台本に沿った授業を次々と撮影しました。数が多すぎて、一人では手に負えないほどでした。

 

 女性教師の授業「ウクライナの政策を決めているのは、過激派と国粋主義者と……ネオナチです。ロシアとウクライナとのあらゆる絆が危機にさらされています」

 別の女性教師の授業「2022年2月、彼は特別作戦に参加しました。 その目的は非…… (パシャ「非軍事化」) ウクライナの非軍事化と非ナチ化で……」
 慣れない文言に苦戦する教師。

 

 アブドゥルマノフ氏の授業
「さて次は経済についてです。ハイブリッド戦争の経済的な側面です。つまり、我が国ロシアに対して科された制裁のことですが、皆さんも知っている通り、制裁によって実際に苦しんでいるのは、ロシアではなくヨーロッパです。我が国からのガスや石油が得られないからです。例えばフランスでは車のガソリンタンクを満タンにするのに、1万4千ルーブルもかかっています。フランス人は三銃士の登場人物のように馬で移動するようになるでしょう。ヨーロッパの多くの国は、作物が底をついています。小麦粉も油もありません。フランスはいい方です。牡蠣やカエルを食べることができますからね。しばらくは持ちこたえるでしょう。しかし小さな島国イギリスはどうでしょう。ナチスと戦った時、イギリスは国民を餓死させています。アメリカでは、ロシアを支持するデモが行われています。我が国が本気になれば、ウクライナを2日で壊滅できるでしょう」

 

 パシャ:教員の多くが、教育現場への介入に戸惑いました。 僕が子供たちと過ごしていた時間も、今では政府の謎めいたデータベースに動画をアップロードすることに費やされています。

 

 町の中心部にあるパシャの自宅。427冊の入念に色分けした本。ペットのオウム、ネブラスカという名前の犬。
 パシャは幼少時に父と死別。現在の職場でもある母校で彼は自分自身の家族を作ることができた。いま彼が理想とする教室は、自分が生徒だった頃にあったらいいなと思っていたまさにそういう空間。 


(友達と歌い踊り笑いあう生徒たち)
「ここは民主主義の最後の砦。この真逆な世界でね。生徒たちはいつでもこの部屋に入ることができます。たとえ閉まっていたとしても誰でも簡単に開けられます。この旗を写して(ロシアの国旗から赤色を除いた旗を示す)」

 

 ある日の授業。
 パシャ「ウラジーミログナ先生は強制的に言わされて話します」
 生徒「 先生、強制されたんなら2回瞬きしてください。先生を助けなきゃ」
 ウラジーミログナ先生「私たちは皆、互いに、そして我が国の軍を助け、周りで起きているすべてのことを受け入れ、支え合うのです」

 

  毎日増えていく「必修」授業。
 教師「クリミアの春を説明できる人? アレクサンダー」
 生徒「クリミアがロシアに編入しました」
 教師「そうですね。ほかの人?」
 生徒「クリミアがウクライナから離れてロシアに入りました」
 教師「なぜクリミアはロシアに入りたかったのでしょう?」
 生徒「ウクライナ政府がインフラのお金を出さなかったからです」
 教師「花の冠をつけている人はカメラに向かって手を振って。大きな笑顔で」


 プロパガンダのための作業にうんざりしていたある時「特別軍事作戦で仕事に影響が出た人を求む」というあるロシア企業の投稿を発見する。すぐに連絡を取った。

「応募します。なぜなら、僕は御社の企画にふさわしい候補者だと思うからです。僕はすべきことと正反対の行動を強いられている教員です。学校のビデオ撮影担当という立場にあり、ここで起きていることをすべて記録しています。返事をお待ちしています」

 

 司書をする母親に状況を話す。

 パシャ「母さん、何が起きているか知ってる? 何を学ばされているのか? 特別軍事作戦の英雄たちのことだよ」
 母「だから何? 戦争には男の子たちが行っている。若い子たちよ。男の子が戦争へ行くのは当然のこと」
 パシャ「そんな当然はまっぴらだ」
 母「お前は人と違うから……」
 パシャ「この国は多くを欲しがる。だけどそのために戦争を始める必要はない。誰かの欲望のためになんか」
 母「言いたいことは分かる」
 パシャ「一人のバカがやると決めた。今や世界中が恐れている。なんて愚かな人間なんだ。ただ座って何もしないでいればよかったのに」
 母「人は戦争が好きなの。撃ち合いたいの。この国の人たちは世界のあちこちであらゆる戦いに参加してきた。昔からそうよ。人は撃ち合うのが大好きなの。たまにはまともに考えたらどうなの。お菓子食べる?」

 

 パシャは辞職を考える。
「まるで自分が部屋の中にいて四方の壁が迫ってきているような感じ。だんだんと息苦しくなるような感覚です。僕には何一つ変えられないこともよくわかっています。自分はこの閉じた世界に囚われたままです。僕は自分の仕事が好きですが政権の手先にはなりたくありません」
「僕はカラバシュの初等中等教育学校を辞めるつもりです。どんなしっぺ返しがあっても構わない。僕みたいな男だって信念を貫くべきなんです。事務局に退職願を出しました。6月には僕はここにいません」

 

 国中で戦争のプロパガンダが鳴り響く。校外での仕事も請け負うパシャは戦争支持の集会も撮影する。
「自分の街なのによそ者みたいな気分です」

 

 テレビの男性「報復のための攻撃です。我々の神聖な憎悪の表明です」
 別の男性「殺すのは憎しみからではない。愛ゆえの行動なのだ」
 歌手の歌詞「ああ母なるロシア 核ミサイルは準備ができている 赤い旗を守る僕らを信じて」

 

 パシャ:大都市には反戦活動をする人たちもいます。
 互いに腕を組み人の輪をつくり「戦争反対!」と叫ぶ人々。
 ニュース番組でアナウンサーの後ろにフレームインし「戦争をやめろ!」と書かれた紙を示し叫ぶ女性。
 機動隊に排除されるデモ隊。

 

 パシャ:僕も彼らのように勇敢だったらいいのに。でも僕はそうじゃない。そしてそれはこの町の誰もが同じです。

 

 町の女性にインタビューする。
「戦争に反対している人は?」
 女性「そんな人知らないわ。わたしたちの仲間にそういう人はいません」
 別の女性「あえて反対なんかする人はいませんよ」

 

 パシャの撮った映像は町の図書館前に置かれた大画面テレビで流されていた。
 パシャ:僕は若者たちにプロパガンダを広めていたんです。

 

 メールへの返信が届く。 
「私はヨーロッパでドキュメンタリー映画に携わっている者です。戦争がいかにロシアの教育現場に影響を与えているかをテーマに作品を作るのであなたの意見を聞かせてください」

 

 ひと晩考えた末パシャは映像を世界に見せることを決めた。
 映画のためとなれば学校でのすべての出来事を撮影するという自分の立場がこの上なく好都合と考え一度出した退職願を取り下げる。

 

 政権から派遣された歴史教師、アブドゥルマノフ氏にインタビューする。
 パシャ「なぜ歴史の教師に?」
 アブドゥルマノフ氏「歴史は最も重要な社会科学の一つです。『自分たちの国の歴史を忘れた者に未来は決して訪れない』この有名な格言は全くもって真実だと思いますよ」
 パシャ「歴史上の人物で誰に会ってみたいですか?」

 アブドゥルマノフは3人の名を挙げる。彼らはソビエト時代の軍人や秘密警察の長官。いずれも苛酷な弾圧に関与した人物。

 パシャ「なぜこの人たちを?」
 アブドゥルマノフ氏「興味深い仕事をしたからです」
 パシャ「生徒たちはあなたをどのように記憶すると思いますか?」
 アブドゥルマノフ氏「楽しい人、だといいですね」

 

 教室で授業を行うアブドゥルマノフ氏
「異なる意見を排除することが極めて重要です。そうすれば国内で政治的な分断など起きません。ロシアを愛するのは君たちに何かをしてくれるからではなく 自分たちの国だからです。母親を愛するのはその人があなたの母親だからです。祖国もそれと同じです。もしもこの国に生まれながら国の行動は正しいと信じないのなら出て行きなさい。 自分がより良い国だと思う場所へ行きなさい。この国に暮らしながら国を愛さないのならあなたは寄生虫と同じです」

 

 パシャ(自分のカメラに向かい)
「アブドゥルマノフを全く理解できないわけではありません。彼は洗脳されていて自分が正しいと心底信じているからです。でも僕が心配するのは彼の前に座っている生徒たちのことです。彼らは自分の人生をどう生きるべきかまだ学んでいません。そういう重要な意思決定はまだできないんです」
「何もかもが大好きです。人々が大好きです。母国を愛することは国旗を掲げることではないと思います。国家を歌うことでもありません。愛国心を煽ることでもプロパガンダでもありません。国を愛するというのは我々には問題がある、と言えることです」

 

 予備役の動員が始まる。計画では30万人。
 パシャの勤める学校でも卒業生の多くが兵役の年齢に達している。

 

 プーチン大統領(テレビで)
「予備役から部分的な動員を行う。国防相参謀本部の提案を支持するため、大統領令に署名した」

 

 女子生徒マーシャの兄は動員され戦地の待機要員となっている。
 月給は12万ルーブル(約23万円)。

 マーシャ「最初は私も母と同じ考えだった。自分にかかわりがなければ戦争なんてどうでもいいと思ってた」
「(送られてくる写真で)兄はなんかすごく怖い武器を持ってる。胸に4つの手投げ弾をつけてる。こっち側にも4つ」

 

 パシャの生徒ヴァーニャも徴兵される。壮行会をひらき皆で彼の髪を刈る。
 パシャ「なぜ連絡くれなかった?」
 ヴァーニャ「あっという間で、気づいたら決まってたんだ」

 壮行会終盤、涙ぐむヴァーニャ。
「やばい 泣けてきた」
 数人の友人が彼に抱きつく。
「ヴァーニャ、お前は俺の友達だ。お前は俺の兄弟だ。心で結びついてる兄弟だ。お前は信頼できるいいやつだ。俺は本当のお前を知ってる。」
「1年間行ってしまうのか。最低だな」

 

 パシャはこの壮行会のあと不眠に。感情を吐き出したいという衝動を抑えられなくなった。

 

 学校での日課となっている国家斉唱の儀式の準備中、代わりにレディーガガが歌うアメリカ合衆国の国歌を流した。「これ以上の反逆があるでしょうか」

 母親「パシャ、今すぐやめなさい。どうして刑務所へ行きたいの?学校にはお前の敵がたくさんいるのよ」
 パシャ「だから何?」

 

 

(後編に続く)

 

STEAM教育

日経スペシャル 池上彰のSTEAM教育革新 よき問いでミライを拓け
放送日 2025年12月26日 BSテレ東

 

STEAM教育(Grokによる補足)

 2002年度から始まったSTEM教育(Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Mathematics=数学。理数教育に重点)にArtsを組み込んだのがSTEAM教育。

 日本では2020年から本格導入。

 文科省はArtsを美術・音楽だけでなく文化・経済・倫理なども含む広い範囲で定義し、実社会の問題発見・解決に活かす教育を推進。

 ※STEAM教育は全国の公立学校で一律に義務化・全面実施されているわけではない。新学習指導要領(小学校2020年度~、中学校2021年度~、高等学校2022年度~実施)でその考え方が取り入れられ、奨励・推進されている段階。

 

世界の論文数(2021年~2023年)
       論文数 シェア(%)
1 中国   599,435  29.1
2 アメリカ 289,791  14.1
3 インド    91,997    4.5
4 ドイツ    72,762    3.5
5  日本    70,225    3.4

 

 池上氏「ちょっと深刻だなと思うのはドイツに負けてる。ドイツって日本より人口少ないわけですよ。日本は1億2,500万人、ドイツは8,900万人ですから」

 シェアの推移で見てみると日本は2000年代に入ったあたりから下降気味、対してその数を急速に伸ばしているのが中国。

「いま中国は基礎的な研究にものすごくお金をつぎ込んでるんですよね。日本もかつては結構潤沢に資金が出ててその結果いろんな成果をあげた。30年前にあげた成果で今ノーベル賞が出てるわけですよね」

 

理系が少ない日本
 日本は昔から文系に偏りがちな文系大国と言われている。
 去年の高校生で理系はおよそ3割を切っている。
 対して文系の方は5割近い。

 文科省は来年度以降数千億円規模の基金を活用して各都道府県の高校に重点的に資金を配分、理系カリキュラム拡充の支援をする。
 最終的には理系の生徒の割合を4割まで引き上げる方針。

 

STEAMの授業 関西大学初等部の例

 小学4年生の国語で習う新美南吉作の「ごんぎつね」。

 キツネのごんは、兵十が母のために捕まえたウナギにいたずらをして逃がしてしまう。
 兵十の母の死を知ったごんはいたずらを後悔。
 その償いにイワシを送ったり栗や松茸を兵十の家に届けるようになる。
 しかし、またいたずらをしに来たと思った兵十は、ごんを火縄銃で撃ってしまう。
 そして近くにあった栗を見て、ごんが届けてくれたことを知るという結末。

 

 この「ごんぎつね」をSTEAM化するという試み。

 国語として読み解くのではなく、疑問点を探し「問い」を出す。

 

 生徒Aイワシは本当に新鮮だったのか?」
 生徒B「どういう栄養があるか」
 堀先生「まったく別の視点で、じゃあ例えばこんなのはどう?」(「数学」の札を示す)
 生徒C「何匹とるかとか、値段はどのくらいにするのかとか」

 生徒D「一番気になったのが、兵十が、貧乏なのになぜ火縄銃を持っていたのか。本当に買えていたのか?時代が幕末から明治時代だから、だいたいその金額が100万円らしい。お母さんが死ぬ前にそのお金をお母さんに使ってあげていたら、お母さんは生き延びていたのでは」

 生徒E「なんで2~3日雨が降っただけでごんがイタズラをしたい気持ちになったのか。調べてみたら、雨の日は日光を浴びられないからセロトニンが減少してイラついていた?」

 生徒F「最初は問いをあんまり出せなかったけど、STEAMの視点で結構問いが思い浮かんで、便利だなって」

 

 国語の松本先生「国語教師として教えている身としては、文学をそういう読み方をして大丈夫?文学の世界壊れない?っていう不安もありつつ」
「表面的じゃなく深いところまで読むことができたっていうのはみんな言っていたのと、普段国語より算数が好きな子とかが活躍したりだとか」

 

──宮野先生、この授業どうですか?

 宮野公樹准教授(京都大学 学際融合教育研究推進センター)

 2022年から日経STEAMアドバイザー

「すごいなと思った。あらゆることはあらゆるものと関係しているので、それがさっき言った一つの分野に留まらないという意味で、むしろ一つの分野、国語だったら国語の授業に留まっている方が特殊というかおかしいんで」

 

京都大学「京大100人論文」

 2015年から始まった、STEAM的な視点の研究交流イベント。学際融合教育研究推進センター主催。

 京大の研究者100人が自分の研究テーマや関心事を匿名でポスター(テンプレートがある)に掲示

 そのポスターに来場者が付箋で匿名コメント(質問、意見など)を貼っていく。

 互いに肩書きや所属の先入観なく、本音の意見交換をすることが狙い。

 宮野氏の「大学の研究環境が閉鎖的になりがち」という問題意識からスタート。
 このモデルは全国に広がり、広島大学琉球大学横浜国立大学など30以上の大学・組織で類似イベントが開催されている。(Grokによる補足)

 

 宮野氏「匿名性が最大の売り。偉い先生だから…というのをなくす。純粋に問いだけで意見交換する」

「本来研究者って何か知りたくて研究者になったんで、研究者の前に探求者なんだよ本当は。でもそれが研究者になったらやっぱりちゃちゃっと論文書いてちゃちゃっと金取ってみたいな。慣れちゃうというか。やっぱりそうなると学問はダメだと思っていて、そもそも俺何で研究者になったんだっけとかその探求心を確認しなきゃ。思い出さなきゃ初心を」

 

「学際」

 池上氏「それぞれの学問がものすごく細かく分かれてしまうとそのちょうど間にこぼれ落ちるようなことが起きるわけですよね。それを他のところと協力し合ってこれまでこぼれていたものを助け上げるということだと思うんですよね」

 

 宮野氏「いい仕事っていうのは必ずまたぐ。分野もまたぐし業種もまたぐ。いい仕事ってのはすごい広い。でつまりやっぱり研究者もいい仕事をしようと思ったら分野を超えざるを得ない」

「大事なのはSTEAMって語呂いいからAがあの場所に入ってますけども多分本当はアートはもっと土台なんですよ。さっき言った『感じる』ですよ。それがあってS、T、EとかMがある」

 

「わかりやすい」とはどういうことか

 池上氏「私(が気を付けているの)は専門用語を使わない、和文和訳という言い方もしてますけど、わかりやすいと思うのはどういうことかっていうと自分の中に持っていたバラバラの知識がいきなりつながったときにあ、そうかっていうときに思わず膝を打つわけですよ。だから伝えようとしている相手が小学生なら、中学生や高校生ならどれくらいの知識を持っているだろうかあるいは一般の方ならどれくらいだろうかっていうと少なくともこの知識は持っている。そしてこの知識がある。これとこれをつなげていくことによって自分なりにわかったということになる」

「毎年4月に東京科学大学で新入生に話をするんですけど、君たちはきっと小中高校と良き答えとは何かとひたすら先生が求めている答えは何だろうと忖度してきたと。忖度力を身に付けてきたと。大学からはそうではない、良き問いを立てることだって、いつも言ってるんですよ」

 

 

 

音から電気を「収穫」するという発想 エネルギーハーベスティング

サイエンスZERO 電源革命!?”エネルギーハーベスティング”技術最前線
放送日 2025年12月21日

 

 スマホやイヤフォンの充電が不要になるかもしれない。コンタクトレンズで血糖値をモニタリングできるようになるかも。

 

 音、Wifi電波、動き、涙から電力を「収穫」する技術の開発が進んでいる。

 

 エネルギーハーベスティング。  

 

 スマホの中にある指紋センサー、音センサー、光センサー。
 これらはほんのわずかな電力で動いている。
 家電の1億分の1、たった数ナノワット。  

 

 これだけ小さな電力なら「その場で発電」ができるかもしれない。

 どうやって発電するか。  

 

「音」から発電
 横田知之准教授(東京大学大学院)  
 発電素子と呼ばれるエネルギーを高効率で電力に変えるシートを開発。大き目の切手ほどの面積。音の振動を使って発電する。
 厚さ50マイクロメートル。薄い3層のシートが重なってできている。  
 中心にフッ素樹脂を使ったナノファイバーシート(振動の圧力で電圧を発生させる素材)、それを2枚の電極シート(ナノファイバーをメッシュ構造にして金属でコーティング)で挟む。  

 音の振動を受けた3層のシートはそれぞれ細かく震える。
 このとき中心の層が外側の電極シートに触れることで電力が発生する。静電気に近い原理。  

 番組内の実験では90dBの音で200mVの電圧が発生。  

 

 この発電素子は面積を広げれば発電量も増やすことができる。  
カラオケルームの壁一面に発電素子を貼れば歌声を音エネルギーとして収穫、歌っている間にスマホを充電、という未来もありえる。

 横田氏「ライブ会場とか工事現場など大きい音がある場所で利用すればより効率的にエネルギー収穫できるんじゃないか」

 

エネルギーハーベスティングとは
鈴木雄二教授(東京大学大学院工学系研究科)  

「日本は半導体スマートフォンの世界でも材料は非常に強いんですけれども、このエネルギーハーベスティングの世界でも日本発の新しい材料が続々出てきていますので非常に注目できるものだと思っています」  
「日本はもったいないという意識が非常に高いので、普段捨ててしまっているエネルギーだけれどもそれをうまく使って電池もいらないという世界は非常に合うんじゃないかなと」

 

 エネルギーハーベスティング技術が進んでいくと生活はどう変わるか。

 鈴木氏「使いたい時に振れば電力が生じる懐中電灯、額に貼ると発電して体温が測れる体温計もできるようになるんじゃないかと思う」


Wi-Fi電波で発電
 Wi-Fiなどの電波強度は極めて小さく、ここから効率的に電力を取り出すことはこれまで不可能とされてきた。  
 それを可能にする研究がある。

 

 深見俊輔教授(東北大学電気通信研究所

 スピントロニクス
 Wi-Fiの周波数帯での電波からの発電が可能。  
 電子の性質を利用した新しいエレクトロニクス。  
「電子は電荷に加えてスピンという磁気的な性質も持っていて(電気と磁石の性質)、これを両方利用するというのがスピントロニクスの特徴です」  
「電波というのは正確に言うと電磁波で、これは電気的なエネルギーと磁気的なエネルギーを両方同時に運んでいるんです」  


 その磁気的なエネルギーをキャッチして電気的なエネルギーを生成することができる。

 スピントロニクスの発電素子は1つ1つの素子がいわば発電所。幅およそ200ナノメートルの中で電力を生み出す。5cm四方ほどの薄いシートに発電素子が並ぶ。
 発電の仕組みは手回し発電機と同じ。持ち手を回すと中の磁石が回り、磁界の向きが変化することにより電気を発生させる。  
 Wi-Fiの周波数の電波を受けると電子のスピンが回転し、それに伴って電気の流れが生じる。  

「最も小さな磁石、電子によって電気を起こすことができるのです」

 

 シンガポール国立大学との共同研究で発電素子を8個つなげ実験、Wi-Fi電波からの発電でLEDの点灯に成功。世界最高効率の発電を達成した。

 この時生み出した電力は1.4マイクロワット。
 1秒間に電子が250兆個動いた計算。  

 

 深見氏「究極の目標は例えばスマホで通信しないときにその電波で充電する。充電が不要になるというようなこと」
  この発電はBluetoothの電波、テレビの電波など全ての電波で同じようにできるという。  

 

振動、動きで発電
 鈴木氏の研究
 エレクトレット発電デバイス
 エレクトレット:電気エネルギーを半永久的に保持できる誘電体
 基板の上にエレクトレットのフィルムが乗っており、表面は1000ボルトほどの電圧。

 番組で紹介されたのは手首につけられるほどの四角いデバイス
 エレクトレットの下に2つ電極があり、スライドさせることでプラスが右に行ったり左に行ったりすることによって発電。

 

 鈴木氏「手首につけて体温や心拍数が分かる。暑い日の熱中症の予防に役立ったりスポーツとかリハビリテーションの時に腕につけると運動の評価に役立つ」

 

 踏切の警報器に使われている。
 エレクトレットの発電機が世界で初めて商品化された例。
 音を振動として吸収しエレクトレットによって電気に変換。  

 鈴木氏「踏切の警報器が鳴らないと非常に危険。これまで人手を使ってチェックをしていたが自動的に確認ができることによってチェックがいらなくなる。電池交換も必要なくなるというメリットがあります」  

 

涙で発電
 心拍数や消費カロリーなどを測るウェアラブルバイス。  
 そのデバイスを動かす電力を「体から」収穫してしまおうという技術。  

 極薄極小の発電素子を組み込んだコンタクトレンズ

 

 新津葵一教授(京都大学大学院 情報学研究科)
「涙の中にわずかに糖分が含まれています。その糖分で発電し電力が得られます」  

 発電のエネルギー源は涙に含まれる糖分、グルコース。  
 糖分と金属が化学反応を起こし電子の動きが発生。電力が生まれる。  

 

 このコンタクトレンズにより血糖値を測ることも可能。
 新津「血糖値と涙液糖値の間には相関があるので、その発電量をモニタリングすることで血糖値を推定することができます」

 糖尿病患者などの血糖値を常時身につけるコンタクトレンズなら発電しながら計測できる。
 血糖値を測定する計算は外部のパソコンで行うことで超省エネで血糖値を測り続けられる。  

 発電装置で電気を起こしその発電量を送信するだけのシンプルな設計のため消費電力はわずか0.27ナノワット。涙の発電だけで充分稼働させ続けられる。

 新津氏「将来はディスプレイを内蔵し視界に数値が表示できるようにしたい」

 
 鈴木氏「新津先生のご研究はバイオ燃料電池というもの。もう少し大きいものを体内に埋め込むと例えば心臓のペースメーカーとか糖尿病の治療をするためのインシュリンポンプを電池なしに動かすことができるようになると思います。電池交換の手術も不要になる」
「体温も非常に大きなエネルギー源になる。皮膚温と空気の温度の温度差で発電するということもできて、その熱電材料というものも日本が非常に強い分野。多くの研究者が取り組んでいるのでこれからどんどん効率の高い材料が出てくるんじゃないかなと思っています」